”風を感じる、生きねば”
関東大震災に戦争という激動の時代を懸命に生きた人たちの話
映画 風立ちぬ~あらすじ
実在した航空技術者(設計者)である堀越二郎氏をモデルに
堀辰雄氏の小説で描かれた世界を融合させたような物語
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地方の裕福な家に生まれた堀越二郎は
幼いころから「飛行機」を愛する少年だった。
幼い時より近眼で眼鏡が欠かせない二郎少年は
パイロットになる夢はかなわないことを知っており、
ならば「飛行機の設計士になろう!」と勉強に励む。
子どもの頃から夢の中で
尊敬する飛行機設計士のカプローニ氏と交流を深めており
「いつか戦争の為ではなく、人々が楽しんで乗れる飛行機の時代がくる」
と話、今はできる限りを尽くし技術を進歩させていくことを誓う。
東京帝国大学で航空工学を学んでいた二郎は
帰京中の列車の中で関東大震災に遭遇。
地響きと崩壊する街をパニックになり移動する人々の中
二郎はひとりのお嬢様とその使用人の女性を助ける。
名の名乗らずに、ふたりの元を立ち去る二郎。
この時であった少女が、後に運命的な再開を果たす「菜穂子」だった。
大学を首席で卒業した二郎は三菱に入社。
戦時中であるため、軍の依頼で飛行機の設計に携わることに。
日本よりも当時技術が進んでいたドイツへの出張が決まる。
ドイツ~西側諸国を回り設計技術を磨き、帰国。
帰国後、二郎は数々の戦闘機を設計。
七試艦上戦闘機の開発ではじめて設計主任を任される。
ところが飛行試験中に翼が折れ墜落し、失敗に終わる。
この失敗のショックは大きく「これから」のことを考えるため
二郎は休暇をとり、軽井沢のホテルで静養することに。
ここで、彼は大震災の日に助けた少女・菜穂子と運命的な再会を果たす。
軽井沢で過ごす日々の中で
二郎は菜穂子と親交を深めていき、
彼女の父に「娘さんと結婚させてください」と話す。
菜穂子も彼女の父も二郎が「好青年」だと知っていたが
菜穂子は結核を患っており、彼女の強い申し出により
「必ず結核を治します、それまで待って」と”婚約”関係となった。
結婚して二郎と一緒に暮していくために
菜穂子は山の中にあるサナトリウム(療養所)で治療に専念する。
菜穂子との恋ですっかり元気を取り戻した二郎は
以前にもまして仕事に前向きに取り組み
社内に研究会を立ち上げ、その中心となり皆を引っ張る存在に。
そんな中、二郎に会うために療養所を抜け出してきた菜穂子。
彼女の病状がよくない事を承知で二郎は「彼女との時間」を大事にしようと
上司・黒川の離れで新婚生活をはじめる。
2人に残された時間が少ないことをわかっていたのだ。
結婚し、更に飛行機の設計にも熱を入れていく二郎。
新しい技術やデザインを果敢に取り入れ挑戦していく。
そして、二郎が工夫を重ねた
軽量化と機能性を高めた独創的な設計の
九試単座戦闘機の試作一号機が完成する。
飛行試験までこぎつけ、疲れ切った二郎は
帰宅後 菜穂子の横で倒れ込むように寝てしまう。
緊張の飛行試験に臨む二郎、
その時 菜穂子もある決意を胸に前に進みはじめていた。
※以下、ネタバレ有の感想・考察いきます。
◆印象的な二郎のスーツの色
二郎という人は
実に「凛とした青年」だ。
聡明で慈悲深く、「美しい飛行機をつくる」という夢に
夢中になって取り組んでいる。
大震災や戦争という激動の時代にあって
混沌とした社会の中、ブレることなき信念に従って
真直ぐに生きている。
ただの真直ぐではなく「覚悟をもって」生きている。
自分たちがつくっているのが「戦争の道具」であることも、
日本が貧しいことも、菜穂子に残された時間が少ないことも。
賢さは夢のため、強さは人を守るために使う二郎
そんな、彼の心が繁栄されているかのような色のスーツを着てるのだ。
周囲は紺・グレー・茶のスーツだが
二郎のスーツは基本的に「薄紫色」、
失意の中軽井沢で過ごしている時は「白」になる。
白は彼の心のベースの色なんだろう。
その基本の色に「赤と青」が混ざり
白濃いめの「薄紫色」が二郎色になっているようだ。
彼が持つ「強さ・優しさ・生きる姿勢」に
男性的・女性的の両面があることの象徴かもしれない。
善と悪、敵と味方、男と女(男尊)という二分法的な考え方に
のみこまれている世界・社会にあって
二郎という人はとても先進的な思考の人なのだ。
バランスがとてもいい(羨ましい)
ジブリアニメの中で「一番かっこいい」男性キャラが二郎になった。
◆美しい日本語、美しい日本人
二郎と菜穂子が話す日本語がとても美しい。
美しい日本語、美しい(凛とした)生き方が印象的な映画です。
美しい日本語というのは
クラシックの名曲を聴いている時に近いものがある。
日本人だけど
「日本語ってこんなに美しい言葉だったんだなぁ」と思った。
二郎や菜穂子や周囲の人たちの
困難な時代にあっても「今できることを最大限にやる」という姿勢、
それが未来の良い社会に繋がるという姿勢に感服です。
◆風が立つ、生きねば
人生観が込められているように思う。
主人公・二郎の内面の半分には堀氏が投影されている。
タイトルの「風立ちぬ」に込められた意味は
”風を感じる、生きねば”ってことらしい。
目の前に絶望が広がっていても、悲しみや困難が襲ってきても
風を感じたなら、生きているし生かされている証だと。
だから、「生きねば」と。
宮崎監督がこの映画で「風」として描いているのは
高原のホテルで二郎と菜穂子に吹いた 爽やかで希望に満ちた風ではなく
関東大震災や戦時中のあの爆風や地鳴りのような「恐ろしい風」らしい。
宮崎監督は「今の世の中も、緊張に満ちていて この先が不透明」という点で
この映画が描く時代と同じだという。
社会の流れが「大きく間違った方向へ向かっている」と感じながらも
強い流れに飲まれていく私たち。
それでも「生きる」ためには「今できることをやり尽くしていく」しかない。
宮崎監督に喝を入れられた気分になった(ありがとう)
◆二郎の声を演じる庵野監督
はじめは正直 唖然とした。
少年期の二郎を演じる声優さんが上手で
早々に二郎に魅了されたのだけど
青年になった二郎が突如、朴訥過ぎになったのだ。
でも、見ていくうちに
「これが、リアル」だよなぁって思うように。
実生活の中って、そんなに演劇舞台上のように
感情こめた表現ってしないよなぁって。
庵野監督の表現が、実はメチャクチャ リアルに二郎なのかもなぁと。
相当、賢く聡明な二郎だったので
言葉にして発するまでに自分の中でいろいろな対話が行なわれおり
そのため口からでる言葉も態度も「落ち着き」があったのかもね。