セリフが一切ない分、軽やかでもあり重くもある
喜怒哀楽をそれほどみせない父娘
慎ましく暮らしながらも穏やかで優しい日々に黒い影が迫る
日本は戦争による被爆国ですが
400回以上も行なわれた核実験による被爆者なのです。
実話ベースの映画です
⇓
色々びっくりした映画がこちら「草原の実験」です。
一見すると見渡す限りの大平原で
文明からはかけ離れた穏やかな生活をしている親子、
その美しい娘が少女から大人へ変わりゆく様を
静かに描く恋愛や青春物語のようにも見える作品
でも父と娘にだけ注目して観ていくと
ひたひたと穏やかな日々に黒い変化が起きており
全然違う顔をみせてくるのです。
では「草原の実験」を見た感想や考察いきますっ
- 映画「草原の実験」あらすじ
- ソ連時代の核実験に巻き込まれたカザフスタンの人々がモチーフ
- 少女の目線:父トルガ
- 少女の目線:この地に漂う不穏な空気
- 少女の目線:大草原から外の世界を目指してみた現実
- 少女は何故、白人青年を選んだのか?
- 少女も自然も意図的な構図もすべてが美しい
映画「草原の実験」あらすじ
セリフはなく登場人物も喜怒哀楽の表現の波は小さい。
だからこそリアルにも思える。
主人公の少女ジーマは
父トルガと大平原に築いた小さな家で暮らしている。
その日々は静かで穏やか。
※映画草原の実験 より
毎朝父が車で仕事に行くのを
途中まで一緒に送っていって
帰りは地元の青年カイフィンが馬に乗せ送ってくれる
父の友人の軍人が飛行機でやってきて
時々父を操縦席に乗せてくれる
父はそれに大喜び
娘はそんな父をほほ笑ましく見守っている
少しずつ周囲に不穏な変化を感じつつも
少女ジーマは白人の陽気な青年と出会い気持ちが動き始める
地元青年カイフィンと白人青年とジーマの3人の心が揺れ始める
ある日深夜に帰宅した父の様子がおかしいことに気が付くジーマ
そして夜中に父を追うように防護服を着た軍の人間がやってきて
父を外に引きづり出して裸にし機械をあてて調べ始める。
翌日父は入院し
ここから黒い影はジーマを飲み込みはじめるのだか
彼女はまだその黒い影に気づかずにいた。
父を埋葬し、3角関係に決着をつけ
ジーマが新しい生活を歩み始めた時
家のガラスにヒビが…光の方向を見つめたジーマと彼は…
ソ連時代の核実験に巻き込まれたカザフスタンの人々がモチーフ
ソ連時代に実際にあった話がモチーフの映画です。
1949年~1989年の40年間に456回の核実験が行なわれた
1991年正式に閉鎖
核実験場付近に住む人々は
自分たちが知らぬ間に自分たちが住む土地を
核実験場とされ、現在も住民たちは健康被害や
放射能の影響による奇形・先天性疾患などに苦しめられている。
核実験場とされた地域に住む人々は
きのこ雲を見ているのです。
そしてその雲が意味する苦痛を
身をもって味わってきた住民たちなのです。
少女の目線:父トルガ
父と娘は言葉少ない(というよりセリフがない)が
穏やかに平和な日々を過ごしている感じ。
強面の父だが
娘が父のことを好きな雰囲気が伝わってくるので
父の娘への優しい愛情をジーマの表情を通して感じられる。
少女も運転するんか!?
と思いきや
⇓
父が運転を教えてくれているのだ
※映画「草原の実験」より
ふたりはこんな風に支えながら
慎ましくも幸せにくらしていた。
そんな父トルガが深夜に帰ってきたあの日から
親子の生活は変わってしまう(;;)
その後、トルガを見送るまでのジーマを見ていると
もしかしたらこの地に生まれたさだめを知っていたのかも…
という気もしてくる
少女の目線:この地に漂う不穏な空気
深夜に父を追ってて
軍の関係者がこの姿でやってきたとき
屋根に乗り
双眼鏡でのぞいた時
※映画 草原の実験 より
静かなこの地の異変をジーマは感じ始めていたようです。
何かが起ころうとそている…予感
少女の目線:大草原から外の世界を目指してみた現実
もともとジーマは広い世界を夢見ていた少女
彼女の部屋には大きな世界地図がはられている
その地図上の国々を指でなぞるように見つめている
ジーマをこの地にとどめていたのは
「父との日常」だけだったのかも。
父の最期を看取り
あの木の根元に埋葬したことで
彼女はこの地から外の世界に出ようとした。
車を走らせ
この草原の果てで彼女が見たものは…
※映画 草原の実験より
有刺鉄線が幾重にもはられた境界線がそこにはあった。
この地から向こうへは行けなくなっていたのだ。
この境界線の意味を彼女はもうすぐ知ることになる。
少女は何故、白人青年を選んだのか?
どちらの青年がかっこいいとか優しいとかそういう問題ではない。
地元の青年も地元民族の中ではイケメンで優しい人物だろう。
ずっとジーマに親切にしてきてくれたし人柄も充分にわかっていたはず。
でも、地元青年が家族総出でジーマに求婚した時
彼女は「この地に縛られてしまう」と思ったのではないだろうか?
それに急にあらわれては
この地には無い「楽しさ」を与えてくれた白人青年に
今までにない「期待」を膨らませていたのかも。
彼女にとって白人青年は「外の存在そのもの」であり
彼女の憧れだったように見えた。
長年優しくされても好感は抱くけど
恋心は生まれないもんなのよね、人間って…
それよりも刺激や変化に弱かったりするのよ
地元青年に抱きしめられた時のジーマの表情
※映画 草原の実験より
全然恋心無い!
そしてこの表情の演技…すご過ぎるっ
もう少女じゃなくて大人の女ですやん!?
白人青年が持っていたのは「自由」なのです。
白人青年が地元青年よりも勝っていたのは
彼女に「自由」を与えられたところなのです。
でも地元青年カイフィンがいい奴なので…セツナイ(;;)
少女も自然も意図的な構図もすべてが美しい
主演の少女の美しさが恐ろしい程なのですが
それ以外にも大草原の景色や
つくりこまれた構図の画が綺麗な映画です。
水、火、木などの表現に納得
小さい鳥たちが飛びまわったり
騒ぎ出すのも…サイレントヒル的な灰の街への暗示なのかも。
美しい少女、美しい景色、美しい青春の映像を見た後の
ラスト数分でそれらすべてが一瞬で消える様は
圧巻の恐怖です。
何年もかけてジーマや父が築き上げてきたモノが
一瞬で吹き飛ばされた。
これが現実にあったことなんです。
多くを望んだわけではなく
慎ましく穏やかな日々を大切にした人たちが
全部奪われてしまう現実がこの世界にはあるね。
こういった現実を知らぬまま生きていたので
この映画を見ることができてよかったです。
では、また~☆